2020.12.19 UP
桜吹雪の下に集ったクラフトマンシップ。2005年から松ヶ岡開墾場(現クラフトパーク)で、春の名物イベントとして10年間続いてきたのが、「庄内クラフトフェアin松ヶ岡」だ。2万人以上が訪れるビッグイベントとして、このイベントを育て上げてきたのが「くらふと松ケ岡 こうでらいね」の石堂佳美さん。庄内におけるクラフト黎明期から現在までを知る石堂さんにお話を伺いました。
カチカチカチ…… 存在感ある古い梁(はり)が重ねてきた、歴史を感じさせる店内に響き渡る古時計の音。クラフトショップ兼体験ギャラリー「くらふと松ヶ岡こぅでらいね」に足を踏み入れると、しっとりとした落ち着いたスペースに、手仕事から生み出されたものたちが所狭ましと並ぶ。まるで時が止まった空間に迷いこんだようなおもしろさがある。
「もともとは酒井家の蚕室を移築してきたもので、先代のお殿様が結婚式を挙げたような由緒ある建物。シルク産業が栄えていた時代は女工さんたちの寄宿舎だった場所なんです」
松ヶ岡の歴史を感じられる店内では、県内外15名のクラフト作家の作品を扱っています。この場所ならでは繭を使ったオブジェから、陶芸や木工作品、カゴや組紐、石彫など、自然素材や風合いにこだわった個性豊かなクラフト作品は、この空間に置かれることでより趣を感じる佇まいに。「こぅでらいね」とは庄内弁の〝こでらいね〟のもじりで、〝堪えられないほど気持ちがいい〟と言う意味。手仕事の息吹を感じる、豊かな時間が流れます。
現在取り扱っている作家さんたちは、ここ松ヶ岡で2005年から10年間続けて開催された「庄内クラフトフェアin松ヶ岡」からご縁が繋がっている作家さんが多いそう。「こうでらいね」のことを語るには、この場所で重ねられてきたクラフトフェアの話からしなければなりません。
もともとフラワーデザインの作家として活動していた石堂さんは、2000年代初頭に、湯野浜温泉でクラフト作家仲間の作品を集めた「庄内クラフトステーション」というスペースの企画や運営に携わります。
「当時は〝クラフト〟という概念自体が根付いていませんでした。何か取材を受けると、〝クラフトって紙の何かですか?〟そんな質問を毎回のように受け、クラフトの定義とは何か、前提からいつも説明していたように思います。クラフト作家同士が繋がって活動することも珍しかった時代です。仲間の一人が、全国規模で行われるクラフトイベントがあるというのを聞きつけてきて、それを庄内でも開催しようと盛り上がり、場所探しをする中で快く迎え入れてくれたのが松ヶ岡の開墾場でした」
2005年当時、大規模なクラフトフェアは珍しく、秋田や宮城、新潟など、近県でも行われていなかった時代。お手本になるようなイベントを誰もが体験したことがないような中、スタッフみんなが手探りのような形でつくりあげた第1回のクラフトフェア。出店作家は60組、来場者5000人にも上りました。石堂さんたちのあたたかなおもてなしは出店者からも大好評でした。以降、石堂さんはこの場所にクラフトフェアの準備室を兼ねつつ、庄内にクラフト文化を根付かせる拠点として「こうでらいね」をオープンさせます。そして松ヶ岡で行われるクラフトフェアは、年を重ねるごとに注目を集め、来場者数は第2回が1万人、第3回は2万人へと増えていき、回を重ねるごとに大きなイベントに成長を遂げていきました。
「松ヶ岡のクラフトフェアから帰った陶芸作家さんが、家で片付けをしていると、器の中から花びらがひらりひらりと。あっ松ヶ岡の桜だと、感激の電話をいただくこともありました」
開催時期は4月の下旬。松ヶ岡はちょうど桜の時期。歴史を感じる蚕室群と桜並木が織りなす風景は、大規模なクラフトのマルシェをやるには最高のロケーション。桜が満開の中行われたある年のこと、イベント中にふわーっと桜吹雪がおきて、会場中が拍手に包まれたこともあったそうです。
「桜の時期のクラフトフェアは、極上の非日常のイベント。来場されるお客様のお洒落度も年々あがっていくのがわかりました。着物を着て来場されるなど、1年に1度の非日常を味わう場所として、庄内のお客様が毎年楽しみにしてくださっているのが伝わってきました」
運営側のホスピタリティも含めて、松ヶ岡のクラフトフェアの評判は全国の作家さんたちの間でも口コミでたくさんの方に伝わっていきました。
お客様、出店作家さん、たくさんの方たちの心を捉えたクラフトフェアでしたが、見えない部分では苦労はいっぱい。積雪の多い地域でもあるので、毎年雪にも気を揉むイベント。4月を過ぎても雪が残っていることも多い松ヶ岡ですので、当日を迎えるまでに、130組以上の出店者のブースをつくることを考えると、広大な松ヶ岡開墾場の敷地をすべて除雪作業が終わってないといけません。スタッフみんなで除雪作業は毎年大変な労力だったそう。その他、細かな事務作業も含めて、9月ぐらいからこのイベントにかかりきりだったという石堂さん。体調も崩されたこともあったそうですが、「こういう大きなイベントは誰かがバカにならないといけない」とそんな風に言い聞かせて、松ヶ岡で行われたクラフトフェアの開催に尽力されました。
2005年から10年間続いたクラフトフェアもひと区切りで終了に。
「ここは天国みたいな場所だ」石堂さんが、作家さんからかけてもらった忘れられない言葉。松ヶ岡のクラフトフェアは、今も多くの人たちの胸に温かな記憶として残っているようです。
現在はショップの運営に専念できるようになった石堂さん。「こうでらいね」ではクラフト作品の展示販売だけでなく、作家さんの作品を招いてのワークショップも積極的に行っています。自然素材に触れて、自らが手を動かす体験は、日常を忘れさせてくれるような貴重な時間。石堂さん自身が教えるフラワーデザインの講座や、カゴ編み、裂織り、まゆクラフト、とんぼ玉……と、様々なクラフトのワークショップが体験できます。
「〝空気感〟ということをすごく大切にしています。この空気感の中でもみなさんが何を感じて、何を持ち帰っていただけるのか。この場所に足を運ぶことで、ものを作りながら、心身ともに豊かな気持ちになって帰っていただけるような場作りを心がけています」
松ヶ岡の桜並木が魅せてくれる美しい四季と、歴史ある建物の中で体験するもの作り。手を動かしながら、おしゃべりも弾み、気がつくと心がほぐれている。この場所に足を運んだからこそ得られる非日常の時間。それは街中のカルチャースクールなどでは味わえない特別なものです。
時が止まったような建物の中で、クラフト作品に出会ったり、手を動かす時間に没頭したり。ものを見ながら、ものをつくりながら、じつは心の豊かさをつくっている。石堂さんがクラフトの世界を通して伝えたいのはそんなこと。みなさんも松ヶ岡に足を運んで「こうでらいね」のドアを開けてみませんか。忙しい日常からそっと離れて、スペシャルな時間に出会ってくださいね。
県内外のクラフト作家の作品販売やクラフトワークショップ講座を実施しています。
■販売商品:県内外15 名のクラフト作家の作品
■場所寄宿舎:(酒井家旧蚕室)
■営業時間10:00~16:00
■定休日:⽔曜⽇(祝⽇の場合は翌平⽇)
冬季は不定休、その他出張講座の場合も休み
■TEL:0235-62-2888