2021.03.02 UP
土と戯れ、手から生み出す愉しみ。「松岡窯陶芸教室 陶の蔵」は、鶴岡のシルク産業の礎を築いた松ヶ岡開墾場において、1982年に二番蚕室に開かれた陶芸教室。貯桑土蔵に移転した現在に至るまで、地元の方々に長く愛されてきました。陶芸だけでなく、食や花の体験なども組み合わせながら、ユニークな教室を主宰されている下妻さき子さんに話を聞きました。
もともとは鶴岡が地元。ご主人が村山市の碁点焼きの施設で働くことになり、家族で村山へお引越し。最初は主婦として家庭を支える役回りでしたが、子育てが少し落ち着いたところで、ご主人の碁点焼きの施設をお手伝いすることになりました。
最初は掃除などの業務に携わっていたのですが、だんだん現場を見ているうちに下妻さん自身が手を動かしてみたくなり、陶芸にチャレンジすることになったそうです。
「みんなで休憩しているときにお茶碗を眺めて、自分でもつくってみたいなと考えたり、ランチタイムの後に洗い物をしながら、箸入れを作ってみたらどうだろうと思ったり、そんなことがきっかけでした。」
まず箸入れを作ってみたところ、筆箱みたいに大きなものが出来上がってしまったそう。そんな思い出を、笑いながら懐かしそうに話してくれた下妻さんですが、陶工師の方から毎日少しずつ習いながら技術を身につけていきました。菊練りと呼ばれる粘土の練り方、ロクロの使い方、鋳込みの技法などを習熟していくうちに、人手が足りないときには、陶芸教室のお手伝いにも駆り出されるように。だんだんと深い世界へと足を踏み入れていったのです。
実際につくりたいものをつくろうと手を動かすうちに、その中でいろいろな手法を教えてもらったり、自分なりの発見もあったりで、どんどんと陶芸の楽しさを感じられるようになっていきました。そうこうするうちに、松ヶ岡の開墾場にも陶芸教室がオープンすることになり、その講師として下妻さんが鶴岡に戻ってくることになりました。
最初は松ヶ岡でお客様が成形したものを、窯のある村山に送っていたのですが、松ヶ岡に窯もつくることになり、それをきっかけに窯焚きのノウハウも習得していったそう。松ヶ岡に導入したのはガス窯。ガスで焚く窯は、電気炉と違って炎を扱うもの。窯の中への作品の詰め方やちょっとした温度管理の違いで、意図した色あいや質感が出ないなど、慣れるまでの苦労も多かったといいます。
下妻さんは、松ヶ岡で陶芸教室をやりながらも、閑散期の冬やお休みの日を利用して、新庄焼きの窯元に電動ロクロを学びにいったり、秋田に練り込みの技法を習いにいったり、いろいろな土地に赴き、新たな手法を習いつつ、試行錯誤を繰り返しながら、年を重ねていきました。
「とにかく楽しんでほしい。そんな思いが強くあります。最初の3年ぐらいは自分が教えることに精一杯で、周りに気を配る余裕もなかったです。でもある時ふと、お客様は楽しめているだろうか、そんなことを考えはじめ、お客さまが〝またつくってみたい〟と思ってもらえるような次に繋がる体験を意識するようになりました。」
その頃からお客様が陶芸教室でつくったものをご家庭でどんな風に使っているんだろうと、そんな視点でものごとを捉えられるようになりました。そこで思いついたのは、陶芸と他の体験を組み合わせるもの。シルク産業のお膝元、松ヶ岡という土地を意識して、桑の葉だんごをつくる体験と陶芸教室を組み合わせたり、味噌作りと陶芸教室を組み合わせてみたり。盛り付ける皿や保存する壺を陶芸でつくりつつ、食の体験も用意することで、「つくる」から「使う」までをお客様に楽しんでもらえる。食やお花など庄内の四季を取り入れながら、下妻さんのならではの視点で生み出されたイベントは毎回好評を博しています。
下妻さんにお話を伺っていると「楽しんでほしい」という言葉が繰り返し出てきます。土と戯れ、一生懸命に手を動かす楽しさは陶芸ならではのもの。下妻さんご自身が陶芸教室での時間を楽しんでいることがひしひしと伝わってきます。
ある時、下妻さんが幼稚園の園児に教えているときのこと。園児たちが粘土を触り出した途端、瞬く間に目が輝き出すのがわかったそうです。でも器をつくりましょうと、次の段階に進もうとすると、それまでのテンションが下がってしまう。そんな様子を観察しながら、この子たちには極力自由に土を触ってもらったらいいんだなぁ、という気づきを得た下妻さん。園児ひとりひとりでも向き合い方の個性が違うし、同じ子どもでも年齢によって、興味を持つ部分や楽しむポイントも異なるもの。子どもたちが目を輝かせて取り組めるよう、下妻さんはいろいろな工夫や心配りをしながら教室を運営するようになったそうです。
「底がゆらゆらするようなカップがつくりたい」と、スケッチ持参で陶芸教室に参加してきた小学生のアイデアを具現化するために、下妻さんも一緒にあれこれ奮闘したお話や、ご病気になられたお客様がその病と向き合いながらも、手を動かす時間に安らぎを見出して、松ヶ岡に通われるお話など、下妻さんが話してくれるお客様とのエピソードはどれも小さなドラマのよう。下妻さんが、お客様が土と向き合う時間、そしてその中にひとりひとりが楽しみを見出すことを大切にしているからこそ生まれるドラマなのだなぁと感じます。
「まるで時が止まっているみたい。松ヶ岡を初めて訪れたときの印象が忘れられません」
下妻さんは松ヶ岡開墾場を訪れたときのことを、今もありありと覚えているそうですが、明治の胎動を伝える開墾場の風景と四季の美しい桜並木のロケーションは唯一無二のもの。だからこそドラマの舞台、つまり陶芸教室に足を運ぶ体験が特別なものに。四季を愛でながら、創作意欲を働かせて、手を動かす時間。そんな楽しみを感じていただきたくて、下妻さんが今日もお客様をお迎えします。
松ヶ岡焼の展示販売や絵付け、陶芸体験も実施しています。
「陶芸教室・陶の蔵」は、どこかなつかしい蔵の陶芸教室と器ショップ。
持ちかえり絵付け、タイルクラフトなどの体験・そば打ち(羽黒産そば粉使用)体験、うどん打ち体験、もちもちの米粉ピザ作りなどの「おいしい教室」体験も好評です。(要予約)
■場所:貯桑土蔵
■営業時間:9:00〜16:00
出張等により変更になる場合があります。
■定休日:⽔曜⽇(祝⽇の場合は翌平⽇)年末年始休業有
※その他出張講座の場合も休み■TEL:0235-62-4824
■FAX:0235-64-0046